農と蔵 たなどぅい

札幌にほど近い自然豊かな町 長沼町には、自然の循環を大切にしながら”物々交換”を楽しむ暮らしがありました。

醤油蔵と玉城さん

農と蔵 たなどぅいさんは、化学肥料や農薬に頼らず、その土地にあるものや自然の循環を大切にしながら農業をされていらっしゃいます。農業だけでなく、冬には蔵で自家製醤油の仕込みもされています。玉城さんは就農する前、東京にある日本料理店に勤める傍ら、料理専門学校に通われていました。夜間の部だった為、社会人経験者の方が多く素敵な出会いや学びがたくさんあり、その中で出会った一人が奥様だったそうです。奥様が長沼町のご出身でご実家が農業をされていらっしゃるご縁から、農業の道へ進むことを決意されたそうです。料理人から農家になったが、いつか”料理”か”農業”をやりたいという思いが漠然と心の中にあったと話す玉城さん。どちらも実現するのはすごいことですね。何より、今の暮らしをとても楽しまれているご様子でした。

沖縄県にルーツを持つ玉城さん。竹富島の種子取祭(タナドゥイ)から名前をもらったそうです。
「竹富島の種子取祭(タナドゥイ)は、約600年の伝統があると言われており、国の「重要無形民俗文化財」の指定を受けています。毎年、旧暦2月の庚寅、辛卯の2日間を中心に40余りの伝統芸能が神々に奉納されます。竹富島には「かしくさや うつぐみどまさる」(一致協力することが何よりも大切である)という言葉があり、島人の考え方の基本となっています。」※参考「竹富島 種子取祭」竹富町ホームページより
たなどぅいという言葉には、”種をつけて次世代に繋げるまで、植物の一生にきちんと向き合いたい”という想いも込められているそうです。

北海道の農家にとって、冬の過ごし方は様々です。ビニールハウスで施設栽培をされる方や、事務作業をされる方、出稼ぎに出る方もいらっしゃいます。農と蔵さんでは3年前から畑で収穫した大豆と小麦を使った醤油づくりをされていました。

小麦を煎る作業風景

仕込む醤油は濃口醤油の分量で、大豆と小麦の割合は1:1。使う小麦はスペルト小麦(古代小麦)です。お知り合いの農家さんから分けていただいた種から栽培を始めたそうです。もみ殻が硬く扱いが難しいそうですが、近年の品種改良されている小麦よりも自然農に向いていて、食べてもアレルギーも引き起こしにくいと言われている品種です。

煎った後のスペルト小麦

煎った後は、少しぷっくらと膨らみ香ばしい小麦になりました。この煎り具合で醤油の香りに違いが出るのですが、さすが元料理人。次から次へと手際よく、絶妙な煎り具合で作業を進められていました。また、玉城さんは本格的に醤油を作る為秋田県の醤油蔵へ行き、ひと月半ほどかけ醤油づくりを学ばれたそうです。更にこちらの醤油蔵もお手製と言うから驚きです!
小麦を煎った後は大豆を煮て小麦と合わせ、お手製の種麹と市販の種麹をブレンドして”麹(こうじ)”を作ります。

お手製の麹室(こうじむろ)

2021年秋に完成した醤油蔵の中央にある麹室です。断熱材入りで熱が外へ逃げにくい構造になっています。ここで火をおこし、室温と湿度を調整します。麹を作り始めると、完成するまでの約4日、3時間置きに室温と湿度の調整とこうじの様子を確認。まるで新生児を育てるお母さんのよう。手がかかる作業ですね。

麹ができるまで

種麹菌は酵素を出して大豆と小麦を分解、消化しながら増えていきます。麹の様子を見ながら、混ぜたりほぐしたりすること約4日。こうして麹が出来上がります。温度や手触り、見た目、香りなどを感じながらお世話をし、完成を見極めるそうです。

完成したこうじと塩水を混ぜたものをもろみと言います。使っている水にもこだわりがあり、地元の湧き水”馬追の名水”を汲んで来て使っているそうです。水の硬度によって醤油の色が変わるようなので、醤油づくりは奥が深いですね。今年2025年の醤油仕込みは木桶に3個分仕込まれたそうです。これを定期的に混ぜ、2~3年かけて醤油が出来上がります。

仕込み中の醤油樽

完成した醤油は販売していない為、物々交換でわけていただきました。手間暇かけた、数に限りのあるの貴重なお醤油です。私は短角和牛のハンバーグと交換をしていただきましたが、整体マッサージなどで交換される方もいらっしゃるそうです。そんな一期一会の出会いがあり、物々交換はとても楽しいと話してくださいました。

自家製の醤油

玉城さんのつくった醤油は透明感があり、ほんのりと木桶の香りが漂っているように思います。塩味の後に深みを感じる美味しいお醤油でした。

2025年、新規就農してから3年が経った農と蔵さんでは、新しいプロジェクトを進めています。今までの”食べものを作って販売する農家”から、”つくる人を育てる百姓”という『学びあいの場』の提供です。百姓のように沢山のことは出来なくても、少しのこと、例えば10個くらいなら出来るかも。もしくはやってみたい!そんな仲間を百人くらい集めて、学びあいや助けあい、分かちあうために畑をシェアしてくれます。また、醤油づくりについても学べます。畑のシェアを通して農を学び、採れた作物を分かち合うことで、心が豊かになったり、新しい自分に出会えるかも知れません。自然の循環を大切にしている農と蔵さんだからこそ体験できるプロジェクトだと思います。
また、幅広い分野の講師(麹づくりや土壁や土間など左官職人、コンポストトイレづくりや土中環境改善など)を招いたワークショップや講演会の開催も予定されています。ご希望があれば企画をすることもできるそうです。

とてもワクワクするプロジェクトですね!ものづくりが好きな方や、家庭菜園を始めてみたいけど何から始めたらよいかわからないと悩んでいる方にもお勧めです。詳しくは、農と蔵さんのInstagramからご確認ください。

農と蔵 たなどぅい

のうとくら たなどぅい

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